あれってばいつのことだったかな。
ルイから携帯へって電話がかかって来てサ、
用事は大したこっちゃなかったんだけど、
『めずらしー。』
『何がだ?』
『ルイからってかかって来たの、もしかして初めてじゃないか?』
『そうだったか?』
そんなこたねぇだろよなんて言って認めないのへ、
いーや、滅多にかかって来ねぇもんと言い返せば、
『…あ、そかそか。当たり前じゃねぇかよ。』
『何がだよ。』
『だから。お前の方がガッコも早く終わるからだって。
それでいつだって先に“迎えに来い”ってtel、掛けてくんじゃねぇかよ。』
あ、そかと、納得しかけたけどサ。
そうかな、そればっかかな。俺が掛けない日もあるぞ、結構。
けどでも、ほとんど毎日逢ってはいるよな。
セナに羨ましがられてるぐれぇだし…。あ、そっか。
『やっぱ、俺からばっかじゃねぇってよ。』
『ああ?』
『だから。ルイの方が早く終わったり試験休みに入ってたりしたらばサ。
こっちのガッコの前にさっさと来てたりすんじゃんか。』
『ああ、あれはだってよ。どうせお前、呼ぶじゃんか。』
面倒がなくていいだろが、なんて言うからさ。
そんなに“面倒”なんなら、この冬休みは気ぃ遣わねぇでいいぞって。
ルイの言いようを勝手に売り言葉にしちゃって、喧嘩腰のまんまで買っちゃった。
どうもいけねぇな。
もっと人間性をおおらかにもって、厚みのある男んならないと。
喧嘩した後、すぐにそう思っちゃう。
ルイが…気が利かなかったり、
言い回しが足りなくてブキ(不器用)なのはいつものことじゃんか。
そこがいいって気に入ってるのに、
何でまたいつもいつも判りやすくカッとしちまうんだろ。
やっぱ俺ってまだまだ修行が足りねぇのかな。
う〜〜〜〜〜〜〜。
…でもやっぱ。癪には違いないもんな。
ブキっていうならあの進だって、
セナからのメールがなくても、向こうから打って来るっていうのにサ。
ルイはいつだって、
俺の方から出したのへの返事って感じでしか打って来てくんないし。
………そゆの面倒なんかな。
まあ、そっち方面でマメってのは柄じゃあないには違いないけどサ。
よーし、決めた。
今日から冬休みなんだから、ガッコで待ってるってのはナシだ。
秋大会ではカメレオンズも負けちまって、
クリスマスボウルを観終えるまでは踏ん切りつけにくいしってことで、
年明けまでは練習も休みだなんて言ってたし。
だ・か・ら。
今日はこっちからは絶対にかけねぇ。
退屈しのぎのメルもなし。
向こうからのアプローチ待ちだ、このヤロがっ。
この俺様がわざわざそんなことやってやんだぞ、光栄に思え?
………………。
あ〜あ、なんか暇だなぁ。
おっとと、ついつい弄っちまうから触らないでと。
あ、でも。ちびセナとかに掛けんのは構わねぇんじゃ?
ああ、あいつは進の練習に付き合ってるトコか。
いいよなぁ、クリスマスボウル…。
………いやいやっ、俺が連れてってやりゃあ良いんじゃんよ。
こないだもそれ言ったんだし。
今からきっちり体力作りして、
パスとか緩急利くようにコントロールも磨いて、
今からだって一杯やることはあんだしよ。
頑張って、きっとクリスマスボウルに行くんだから…。
…………………………………………。
………はっ☆
しまった、うっかりうたた寝しちまった。今何時だろ。携帯は…。
ちぇ〜〜〜っ、着信なしかよ。
何してんだよ、ルイの奴はっ!
…まさか。明日はイブだし、誰かと約束とかしてんのかな。
そっちの待ち合わせの確認の電話とかで忙しいのかよ。
予約取ったり、プレゼント選んだりしてて?
ギリギリまでずぼら決めそうなタイプだもんな。
きっと慌てて、銀とかツンさんとかに相談してて。
メグさんからは、からかわれたりして。
………チアの子とか、時々ルイの噂してるもんな。
ああ見えて、ホントは優しいとか、面倒見がいいとかさ。
女ってのはどうしてそういうトコに敏感なんだろ。
別にルイじゃなくたって良いじゃんか。
もっと気の利いたカッコいい奴、一杯いるじゃんか。
………女だってだけで断然有利なのに、ずりぃよな。
あ〜〜〜、なんか鼻がグズグズして来た、寒みぃなぁ。
…あ、寒いはずだよ、雪なんか降ってやがる。
ルイの奴、バイクで出てたら難儀してるだろな。
事故りはしなかろうけどサ、
凄げぇ神経使うから、倍くらいへとへとになるって言ってたし。
ざまみろってんだ。
明日は使いもんにならねぇくらい、くったくたになりやがれ。
………ホントに寒くなって来たな。エアコンのリモコン、何処やったっけ。
………………………あっ。
     
窓から見下ろした戸口前。玄関の先の門柱の陰に何かが見えた。ばたばたって飛び出して門扉を開けると…そこには坊やの腰までもないくらいに小さい雪だるま。
“…泥や土が付いてねぇ。”
ここいらでは降っても積もってもせいぜい数センチ。だから、拳くらいに丸めるのが関の山で、雪だるまなんて欲張っても、表面は土だらけになるのはオチな筈が、そのちびちゃいダルマさんは、真っ白なそりゃあ綺麗な代物で。こんなの作ろうと思ったら、停まってた車の上とか、波板やスレート屋根の上、土に接していないところからたくさん集めなきゃ到底無理で。それを集めようと思ったら…かなりの根気がいるはずで。もう止んだ雪の道。思い当たる方を見通せば、宵の迫る道を、覚えのある大きな背中が遠ざかるのが見える。呼吸に合わせてのものだろう、白い吐息がほのかに見えて、
“………馬鹿ルイ。”
手には部屋から持って来ちゃってた携帯。それをぎゅううって握って、あのね?
♪♪♪♪♪〜♪♪
「なんだ。」
【早っ。】
「いつもワンコールで出ろってうるさかろうが。」
【あのな。】
「おお。」
【…なんで、電話くれなかった? メルとかさ。】
「ん〜、別に用事はなかったからな。」
【ホントにか?】
「ああ。」
【じゃあ、じゃあなんで。バイクにも乗らねぇでウチへ来たんだよ。】
「…ああ。雪が降り出しそうだったし、それに…。」
【それに?】
「お前、風邪引いてるかもって思ってな。」
【ふ〜ん。】
「…雪だるま、見たのか?」
【見た。結構上手だった。】
「だろう。…って、あれ?」
さかさかさか…。かすかな足音、駆け足の音。立ち止まったら聞こえて来て。浅い雪を踏みしめる音だと気がついた途端、はっとして振り返れば、
「…馬鹿ヤロっ!」
2階の子供部屋から飛び出して来た、そのまんまなのだろう薄着で。もう結構な距離を離れていたそんな葉柱の背中を、追いかけて来た小さな影がひくりと立ち尽くす。慌てて脱いだブルゾンを、少し伸びてきた金の髪がかかってる薄くて小さな肩に掛け、小さな小さな体を大急ぎで抱え上げれば、
――― 賭けは俺の勝ちだ♪
? 何の話だ、そりゃ。
だってよ、俺が電話する前に、ルイの方から来てくれてたもんな。
?? まあ、そうだがよ。
暖かな懐ろの深いところへ、まるでその広々とした頼もしい胸板から身体ん中へと取り込みたいみたいに、ぎゅうぎゅうって抱き入れてくれて。大きな手、少し冷たいのはさっきまで雪を触っていたからかな。やっぱり白い息を吐きながら、少し速足で元来た方へ、坊やのお家まで戻ってくれるお兄さんへ。小悪魔坊や、そのお胸の奥にて小さく小さく呟いた。
――― 試したりしてごめんね、と。
〜Fine〜 05.12.24.
*で。肝心なクリスマスプレゼントはすぅ〜っかりと忘れていたら笑えます。
だって今日にも買っておこうと思ってたらさ、
お前がうんともすんとも言って来なくて。
それとなくQ街とかまで行ってさ。
坊やが欲しいもんって、
どんな傾向なのかなってリサーチするつもりでいたのにさ。
そんな言い訳をしながら、困ってるルイさんのお膝へとまたがり、
しょうがないなあルイは、なんて。
大人みたいに俺は寛大だから、まあ許してやるけどサ、なんて。
きっと偉そうに言ったりするんですよ、この子ったら。
そうそう、上手な“ちう”だけで良いとか、
ややこしいことを言い出すかもですねvv
どっちにせよ、難儀な聖夜に…Marry X’masvv(苦笑)
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